四.決意
うみは、考えていた。
もし、ともみが生きていたとしたら、自分は待っているだけでは弱い。 と
ソールから、自分はともみのクローンだという真実を聞かされたうみは、冷静を装うとしつつも悲しみにくれていた。
以前の記憶は、なぜかなんともいえない恐怖心があり思い出したくはなかったが、自分にはソールや他の皆と離れても、家族や友達はいるんだと思っていたかったから。
それが、実際はともみのクローンで、本来なら生涯目を覚まさず、怪我や病で苦しんでいるともみの体に提供する「バンク」というあんまりな存在。
意識を持ってしまったうみは、そんなともみに最後まで振り回された現実に怒りと悲しみ意外、何もわいてこなかった。
何より、この感情を捨ててしまったら、何も残らない気がした。
うみは、生きる希望を「バンク」という存在から転換した。
ともみを殺すために、生きる。
うみは、その為に、ともみを探すことに協力することにした。
しかし、うみはともみと違って、見た目や声が同じでも、能力はなくただの人間。
協力できることは、たったの1つしかなかった。
それは、失った記憶を思い出すこと。
ともみのバンクが持ち出され、その後ともみは死に、水死体として海から発見される。
寂れた港町で、うみが発見され、そのうみは海から港へ来たという。
うみは、とにかくもっとも海が怖かった。
記憶は、それに関係があるのだと思うと、それを思い出したいとは全く思わず、ソールやニルに促されても首を縦には振らなかった。
そんなうみが、目的の為に記憶を思い出すことに専念するといいだした。
ソールは、そんなうみをつれて、うみを見つけた海へとドラゴンを飛ばす。
うみは、怖かった。
何が怖いのか、全くわからないことも合わせて更に恐怖した。
ずっと傍にいてくれているソールの手を掴み、黙って目を開く。
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三. うみの反抗
うみは、そのソールの言動に、激しく傷つけられてしまった。
小春の部屋に逃げ込み、ともみと同じく、再び小春の言葉に助けられることはなく、家から出て行ってしまう。
森の中に逃げ込み、山をかけ、洞窟の中で涙と悲しみで満ちた心で壊れそうになる。
うみを助けてくれたのは、優しい言葉でも、暖かな人のぬくもりではなく、怒りだった。
どうして自分は、ともみにこんなにも振り回されなければいけないのか…・…。
誰にも、「うみ」として見てもらえず、結局はともみの「代わり」。
たった一人の大切な人さえ、ともみはうみに分けてはくれなかった。
この苦しみを、ともみに返そう。
「代わり」がいらなくならないように、ともみが現れるようなら今度はわたしの手で…・…。
春やソールの捜索で、ようやく洞窟まで二人がやってくる。
その頃には、うみはすっかり生まれ変わっていた。
その態度は冷ややかで、誰も信用していない目で歴然。
二人は何事なのかと驚いた。
家に帰って、うみは大人しくなった。
それでも、たまに見せるその顔には、黒いものが見え隠れしていて、鈴もショックを隠せない。
次の日、いきなり丸江が訪れる。
そして、ソールが止めに入るものの、丸江にうみをつれていかれてしまう。
しかし、戻ってきた丸江に話をきくことになる。
うみは、資産家の家独特で行われているクローンだった。
その管理をしているのが、丸江。
クローンは、資産家の当人が病気や事故で体の一部、臓器等を破損してしまった場合、それを補うバンクとして使われていた。
そのバンクは、個人情報保護も含めて、当人が死亡してしまった場合は、バンクも消すことになっていたのだ。
それがどうしてか、ともみのバンクは綺麗さっぱりどこかへ持ち去れてしまっていたという。
探していたところ、ノイルへ傘を届けにいっていたうみを発見し、回収に伺ったのだという。
ソールは怒りと、希望を失った悲しみで不安になる。
しかし、うみを失うわけにはいかず、バンクの死に繋がるともみの不可解な死についてを否定した。
検査はしたがともみのDNA、ニルにも発見できていない時点でもう希望もない。
それでも否定した。
その結果、丸江はうみの監視をソールに任せて退散し、再び二人部屋の生活が戻ってきたのだった。
二. うみとの出会い
彼女の名前は不明、住んでいた場所も不明…・…。
彼女は、列記とした記憶喪失になっていた。
ソールは、彼女にうみと名前をつけ、一時の間を共に過ごす事を決意する。
その様子を見た、危水家の二人は、家に連れて帰るようにいった為、ソールの部屋でうみも一緒に暮らすことになった。
ともみとはいえないものの、希望をもったソールは見違えるように元気になっていた。
数日間、うみはソールの部屋で待機して、ソールが帰ってくるのを待っていた。
家に帰ったら、話をしたり、食事にいったり、二人してドラゴンで夕日や夜景を見に行くこともあった。
そんな些細なことが、うみには楽しかった。
それがいつまでもつづくものだとは思っていなかったし、ソールが自分のことを大切にしてくれるのは、ともみの代わりなんだということも知っていたけど。
その日は雨で、うみはソールに傘を届けにいった。
ノイルでは、ともみが生き返ったと大騒ぎ。
うみは、ともみの大きさに驚いた。
自分とは別の…・…同じ姿形をした人間。
似ているのに、環境はまったく違っていて、泣いてくれる友達や、喜んでくれる友達が、とてもとても羨ましくうみには思えた。
その日うみは、春や鈴達、ほかスノウやダリアといったノイルのメンツの晩餐で、ソールとの関係を聞かれる。
しかし、二人の関係は、よく兄妹に似ていた。
でも、ソールは、兄妹よりも恋人のほうが、一緒にいれる時間は長いという。
うみは、初めてソールに我侭を言った。
恋人になってほしい。
ずっと一緒にいてくれる人が、たったの一人でいいから欲しかった。
そのうみの言葉を、ソールは断った。
一.ともみ
ともみは、数ある名の知れた富豪の中でも、とっぷクラスのお嬢様だった。
しかし、重役だ会議だと、ともみは女というだけで蔑ろにされ、代わりに育てた執事の影響もあり、ノビノビとお嬢様らしからぬ女の子へと成長する。
ともみは、両親に相手にされないことも、自分が男でないからだと思って、男に負けないようにと別の道を努力していた。
そんなともみは、いつしか大きくなるにつれて、男にも女の子にもなりきれていない自分にコンプレックスを持つようになる。
交友関係、恋愛…・…。
ともみに好意を寄せていたソールは、ともみの態度に傷つき、感情を制御する薬を愛理から貰う。
やめたほうがいいという愛理の言葉を聞かず、その薬を飲んだソールは、涙を流すまで感情が大きく表にでることはなくなってしまった。
その事を知ったともみは、ゴタゴタの重なりから、つい弱音を大好きな異性である小春に吐く。
しかく、小春はともみの悩みに手を差し伸べられるほどの力はなく、問題解決と向き合うことを放棄してしまったともみは、小春の前からも、ノイルからも許婚者の軽と共に姿を消してしまった。
それから、いくらかの月日がながれ、ともみと軽の水死体が発見されたと、大きくメディアで報道される。
ソールは、ここでようやく悲しみの涙を流す。
もし、薬を飲んでいなければ…・…と、今更思ってももう遅い。
ソールは、その真相を調べるため、いたる検査を試みるが、結果はともみ意外の何者でもなかった。
それにショックを受けたソールは、部屋にこもりきりになってしまう。
クラスメート達も、亡骸が見つかったからといって、すぐには捜索の手を休めることもできずにいたが、結局それから幾日かして皆諦めてしまう。
ともみの親友であるななこが、ともみのいない寂しさから、不登校になり…・…。
ソールも変わらず、部屋にこもりきりだった。
ある日、寄宿している危水家の、家主であるニル&愛理はソールをとても心配した。
とりあえず、ニルの捜索網からなるだけ力を貸そうと、関係がありそうな女の子のいる港町のことをソールに強引に調べさせた。
あまり賑わいのない、やや寂れた港町の一角に、その関係があいそうな女の子はいた。
何度も話をかけ、顔を見て、声を聴き…・…それは、あまりにもともみと瓜二つだったことに、ソールは希望を持ってしまう。